タリーズコーヒーが全都道府県への出店を達成したのは2014年4月のことで、意外や意外、2015年5月のスターバックスコーヒーや、同年10月のドトールコーヒーよりも1年以上速かった。 また、いま現在国内1000店舗を達成しているのはスターバックスコーヒーとドトールコーヒーのみで、ドトールコーヒーの2004年4月に対し、スターバックスコーヒーは2013年3月と、遅れることおよそ9年。だがしかし、ドトールコーヒーが1号店の出店から国内1000店舗を達成するまで24年の歳月を要したのに比べ、スターバックスコーヒーはわずか7年でこれを成し遂げている。
現在、ドトールコーヒーの国内総店舗数は系列のエクセルシオールカフェなどを含めると1348店舗(2018年4月)。ドトール単体では1125店舗。一方のスターバックスコーヒーは1342店舗(2018年3月31日)となっている。
見方を変えよう。サービス産業生産性協議会というところの調査によると、JCSI(顧客満足度指数)のランキングでドトールコーヒーは2015年度から3期連続で首位の座を維持し続けている。他方、スターバックスコーヒーは2015年度にドトールコーヒーに首位の座を明け渡して以後、2017年度にはとうとう4位圏外へと陥落したのだ。でもここで僕が注目したいのは、スターバックスコーヒーの(おそらく一時的な、あるいは当該調査項目に限られた)凋落などではなく、むしろドトールコーヒーの躍進である。
遡ればスターバックスコーヒーの日本上陸以来、多くの若者たちの間でドトールコーヒーはダサい、狭い、タバコ臭い、というネガティブなイメージが広がっていった。そういった負のイメージを払拭するため、外観を白くして、ゆったりとしたスペースを作り、完全分煙の実現、店内のBGMの変更、電源の設置やwi-fiの完備などの店舗改装を積極的に進めてきたのだ。いわゆる「白いドトール」戦略なのだが、この改装が本格化しはじめたのが2013年頃のことだったという。
ドトールという店だと、ブレンド・コーヒーのSというのが、一杯二百円だ。これを発見したのは一年ほど前のことだ。発見して以来、ときたまひとりで、ブレンドのSを、僕は飲む。飲むたびに百円硬貨をふたつ、代金の皿に置く。そしてすぐに出来る一杯のブレンド・コーヒーを持って席へいき、そこに少なくとも二十分はいるだろうか。( 片岡義男『洋食屋から歩いて5分』)
片岡義男さんのエッセイにも登場するドトールコーヒーショップ。現在はブレンドのSサイズで1杯220円するが、他のコーヒーチェーンやまして昔ながらの喫茶店と比べその安さには変わりがない。サンドイッチなどのフードメニューも豊富で、そういうことが直近の3年連続顧客満足度指数の首位キープという実績に反映しているのだろう。
ドトールコーヒーは、いまなお果敢な挑戦を続けている。2007年の日本レストランシステムとの経営統合による「ドトール・日レスホールディングス」設立後、日レスの運営する星乃珈琲店や、ドトールコーヒーの上位ショップであるエクセルシオールカフェなどの好調に加え、エクセルシオールカフェバリスタ、カフェレクセル、ドトール珈琲農園、神乃珈琲、梟書茶房、等々ユニークで斬新な仕掛けを次々と連発して決してユーザーを飽きさせないのだ。
そんなドトールコーヒーの新戦略について簡単にまとめてみた。
エクセルシオールカフェバリスタ
いま試しにエクセルシオールカフェのサイトにアクセスするとこんなポップアップ画面が出てくるのをご存じだろうか。
実は現在エクセルシオールカフェは、おなじみのエクセルシオールカフェと新しくなったエクセルシオールカフェバリスタという2つの業態が混在しているのだ。バリスタの基本コンセプトの一部を公式サイトから引用してみる。
「心地よい雰囲気」、「最高のクオリティの商品」、「心のこもったおもてなし」に努め、皆様の毎日に寄り添いながら『価値ある時間』をお届けします。
どうやらバリスタは従来からあるエクセルシオールカフェの上位互換というふうに理解できる。そもそそもエクセルシオールカフェ自体、ドトールコーヒーの上位ブランドに位置するコーヒーショップだっただけに、つまりはさらにその上をいく新しい業態のカフェが誕生したことになるのだ。
店舗イメージもこれまでの青と緑のグラデーションカラーから、ぐっとシックに落ち着いた雰囲気に生まれ変わった。ブレンドコーヒーは一杯レギュラーサイズで380円。そしてこの日僕が注文したのが「ルワンダ レメラ ブルボン ウォッシュド」というシングルオリジンコーヒーだ。お世辞ではなく、これ本当に美味しかった。最近僕が飲んだコーヒーのなかでも最上位にランクされるくらい好きなコーヒーだったかもしれない。ホットのみの提供でレギュラーサイズ一杯430円。
この日同行者が注文したのは季節限定の「ショコラオランジュ カプチーノ」こちらもホットのみ提供で一杯500円。まあ見るからに美味しそうで甘そう(想像どおり甘かったそうだ)。
店を訪れたのが遅い時間だったにもかかわらず、八重洲という場所柄か、店内ではノートパソコンを広げて仕事をしている会社員らしき人の姿がやけに目立ちましたね。後日、都内の他店舗にも二三立ち寄ってみたが、どこもそれなりに盛況そうだった。個人的にはカフェインレスコーヒーがふつうにメニュー表にあるのがうれしい。
カフェレクセル
僕が密かに穴場として(比較的空いていることが多かったので)お気に入りに利用していた東京国際フォーラム地下の隅っこの場所にあったエクセルシオールカフェが、ある日突然カフェレクセルというこれまで聞いたこともない店舗に変身していた。店内の内装が従来の店舗とはすっかり見違えるようになっていたから、よもや一晩で早変わりしたわけではないのだろう。単に僕の足がしばらく遠のいていた時期に業態変えしたということだ。もちろん同じドトール系列ですよ。
CAFE LEXCEL(カフェ レクセル)には、
人、商品、店全てにおいて
「EXCELLENCE」でありたいという想いが込められております。
スペシャルティコーヒーと日本のコーヒー文化の融合をテーマに
高品質のコーヒーを1杯ずつ丁寧に抽出した
『A CUP OF EXCELLENCE(最高の一杯)』をお楽しみください。
というのが基本コンセプトらしい。エクセルシオールカフェもエクセルシオールカフェバリスタもカフェレクセルも、いずれも「優れた」「価値ある」「優雅な」コーヒータイムを追及しているらしく、いったいドトールグループのなかでそれぞれどういう位置づけになるのか迷うところだ。まして銀座にはル・カフェ・ドトールというドトールコーヒーの最高級ブランドもあるしね。系列には星乃珈琲店だってある。ドトールのハイクラスランキング、どなたか懇切丁寧にご教示ください。
よくわからないときはスタッフに遠慮なく尋ねよう。それぞれの豆の特色や焙煎具合を親切に教えてくれる。ただねえ、こういうシステムって店が死ぬほど混雑してるときはどうなるんでしょうね? 上手に注文を捌けるのだろうかと要らぬ心配をしてしまった。
ドトール珈琲農園
このネーミングをはじめて聞いたとき、とうとうドトールは本格的に自社ブランドの豆を栽培するコーヒー農園にまで着手したのかと思った。という余談はさておき、珈琲農園は系列の星乃珈琲店同様フルサービスのコーヒーショップだ。昔ながらの喫茶店スタイルと言った方がわかりやすいかもしれない。基本コンセプトはこれ。
珈琲農園主の邸宅に招かれたような上質な空間で、心ゆくまで珈琲の味わいを愉しむ。
そんな空間を目指して、ドトール珈琲農園はうまれました。
これまた「上質な空間」なんて言われると、全国にいま現在(1918年4月)1125店舗もあるというふつうのドトールコーヒーショップの立場とか面子はいったいどうなるんだと、なんだか本気で心配してしまうなあ。
暑かったせいもあるだろう、アイスコーヒーとっても美味しかった。フルサービスだけに居心地も抜群。今後同じフルサービスの星乃珈琲店との棲み分けがどうなっていくのか、その点がちょっと気になりますが、僕的には星乃珈琲店の接客の方がちょっと良かったかなあという印象(たまたまそういう日に当たったのかもしれないけどね)。それとシフォンケーキが梟書茶房で提供されるBOOKシフォンと同じ(こっちはBOOKというネーミングなし)というのも、なんだか笑っちゃった。やはり同じドトール系列なんだなあと。いつかできたら1号店の多摩堤通り店にも行ってみたい。
神乃珈琲
東急東横線を学芸大学駅で下車してドトール珈琲農園とは反対側の商店街をずんずん歩き、商店街を通り抜けてもなおも構わずずんずん歩くと、かれこれ10分~15分程度で目黒通りに出る(はず)。目黒通りを左折して(都立大学方面とは反対側)今度は目黒方面にもうちょっと歩けばご覧の人目を惹く5角形の建物が突如現れる。神乃珈琲(かんのコーヒー)だ。
神乃珈琲は「ファクトリー&ラボ」を標榜している。直訳すると工場と研究所。工場とは焙煎工場を併設してますよというほどの意味だろう。他方、ラボというだけあってスタッフは白衣のようなものを身にまとっている。ハンドドリップもコーヒーを抽出しているというよりなにやら化学実験を行っているふうだった。とにかくなりきり感がすごい。
コーヒーを淹れてくれる様子を「写真に撮っていいですか?」と尋ねると快く応じてくれた(顔は写してませんが)。ブルーボトルコーヒーといい神乃珈琲といい、ハンドドリップはもはや美味しいコーヒーを「抽出」する方法、というよりコーヒーを楽しむための「演出」といった方がしっくりくる大事なサービスのひとつになっているのかもしれないですね。
肝心のコーヒーだが3種類のブレンドの中から選べる。いずれも一杯500円。他に数種類のシングルオリジンコーヒー、カフェオレ、カプチーノなどのエスプレッソドリンク、フードメニューも多彩。水出しコーヒーやカフェインレスコーヒーの注文にも応じてくれる。
ここは本当に掛け値なしに落ち着く場所なのだ。何時間でもずっといられそう。たまたまその日がそうだったか店内に音楽が流れていなかったせいもあるかもしれない。静寂の中でコーヒーを飲んだり、囁くように会話を楽しんでいるカップルがいて、ノートパソコンのキーボードをカチカチ叩く音までが、まるでどこか遠くの方で聴こえるような不思議な閑さだった。白状すると実はまだ2度(しかも平日に)ほどしか行ったことがないので、土日の混み具合は不明。それでも僕の大のお気に入りのカフェになった。
ちなみに神乃珈琲には学芸大学店ともうひとつ銀座店というのもあるそうで、残念ながらそっちはまだ未知の世界。サイトを眺めるかぎりなにやら超高級そうなおいそれとは近寄りがたい雰囲気に正直怖じ気づいているのだ。ただ今後もし立ち寄る機会に恵まれたらそのときはあらためてレポートします。お楽しみに。
梟書茶房