ヒロシコ

 されど低糖質な日日

訪問販売の屋根修理詐欺に遭いかけた話

「屋根修理詐欺」というよくあることなのか非常に珍しいことなのかわからないけれどともかくそいう詐欺に遭いそうになった。あとから振り返るとこれがなかなか面白い話だったので(実害がなかったからいえることだが)記録的な意味もこめて時系列に沿って事実を書きしるしておこうと思う。それはある日の午前中の遅い時間のこと。僕がそろそろ仕事に出かけようとする間の悪いタイミングで玄関のインターフォンが鳴った。いつものクセでちぇっと軽く舌打ちしながら受話器を取った。忙しいところすいません私すぐ下の横山さんのお宅で(すぐ下の横山って誰だ?)内装工事を請け負っている業者のモノなんですがと男が一方的に名乗る。はあと僕。こういう場合はあえて生気のない返事をすることにしている。あの間違っていたらアレなんですけど(アレってなんだよ)お宅の屋根のスレートの一部が剥がれかかっているのがたまたま見えたものですからと男がつづけた。はあ。でですねもしこのまま放っておくといまはまだ大丈夫でもこの先いつ雨漏りするようにならないとも限りませんし場合によっては突風にですねその屋根のスレートの一部が吹き飛ばされでもしたらご近所に迷惑をかけるような重大な事態にもなりかねませんのでと男はそこまで一息にほとんど淀みなくいった。いまから思えばいかにも説明しなれているふうだった。うちは確かに近隣一帯でもとくに人目を惹くくらいボロい家で屋根のスレートの一枚や二枚いつ吹き飛ばされてもおかしくないだろうなあと常日ごろから実は僕も気になっていたのだ。場所によっては微量な雨漏りもすでにはじまっている。そんなわけで男の話を聞いているうちにもしそんなことにでもなればそれこそ冗談ではすまされない事態になるかもしれないなあ思いはじめていた(アブナイアブナイ)。がいまはとにかく出がけでこれ以上詳しく話を聞いている時間も対応を考える余裕もない。ところが男はそんな僕の事情などいっさい構わず話をつづける。それで2~3日中に横山さん宅の工事も終わりますので(だから誰だ横山さんって)もしよかったらそのあとお宅さまの屋根の修理をさせてもらえないかと思って伺った次第なんですが。僕が逡巡していることがインターフォン越しに相手の男に伝わったのだろうか。いまちょっと私の方で時間がとれるものですからお宅さまの屋根に上がらせていただいて点検させてもらうというわけにはまいりませんでしょうか。あもちろん点検は無料でやらせていただきますしもしアレでしたら(だからアレってなんだよ)デジカメで撮った屋根の破損個所の写真をのちほどお見せすることもできますのでと男はたたみかけていう。申し出はありがたいがなにしろいまは手が離せないのだと僕は断った。それでも相手の男はしつこく食いさがってくる。いよいよ独断的に具体的な金額の話に踏み込んできた。実質手間賃だけで3万でどうだろうとズバリいう。資材費はこれまたたまたま余った資材が使えるのだという。その言い値の3万が高いのか安いのかすら僕には判断しかねた。このままでは埒が明かない。後日あらためてこちらから連絡するので名刺とできたらいまいった簡単な見積もりをポストに入れておいてくれと僕は答えた。すると男は名刺の本社の方の電話番号に連絡されてしまうと会社としての正式な見積もりが出てしまいそうなるといましがた自分がいった金額の倍の料金を請求することになるのだといった。なのでできたら支店の方にお電話を頂戴しましてそこで応対に出た者に私の携帯を直に呼び出してほしい旨伝えてくださいこれはあの内緒の話なんですがなにしろ本社見積もりの半値で作業させてもらいますので。というのもですねさきほど申しましたとおりいまならたまたま他所で余った資材が使えますしそれに横山さん宅の(だから横山さんって誰だ?)作業と次のお宅の作業の合間のこれもたまたま空いた時間にお宅さまの工事をさせてもらいますのでそういうことでお安くサービスできるとこういうわけなんですよ。はあ。なんか僕的にはそのへんのなにやら裏事情が微妙にひっかかる気がしてきた。話が回りくどくなったのも気になる。男はつづける。名刺の支店の電話番号のところに黄色いマーカー引いておきますのでかならずそっちで私の携帯を呼び出してほしいと電話に出た者に伝えてください。はあ。では出来るだけ早いご連絡お待ちしております。そこまでいうと男はようやく意を決したかのようにうちの玄関先から立ち去って行った。

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僕はそれから仕事にでかけた。仕事をしながら先ほどの屋根修理の件が気になってずっとあれこれ考えていた。あるいは大事になる前に偶然親切な人に声をかけてもらえてよかったのかもしれない(?)。料金も急な出費としては確かに痛いけれどそれが先方のいう半値ですむのならこんなありがたいことはないではないか(??)。この際だからいっそお願いしようかしら(???)。それとももう少し様子をみるか(????)。そんなふうにああしようこうしようとさんざん悩んでいるうちにだんだん不思議なことに気付いてくるようになったのです。不思議というか疑問というか。まずは業者の男がいったうちのすぐ下の横山さんのことだ。横山さんってのはほんと誰だろう。近所に横山さんなんてうちがあっただろうか。とはいえ隣近所や町内会とはほとんど没交渉なので横山さんが近所に住んでいるかいないのかなんてこと僕は実際知らない。念のため出がけに奥さんに確かめてみたけど奥さんも首を傾げていた。よしんば横山さんという人が近所に住んでいたとしてうちは少し高台の坂の途中にあるのでその下の横山さん宅からはたしてうちの屋根が見えるだろうかという疑問が浮かんできた。その横山さんちが3階建てとかならその屋根に上がれば見えるかもしれない。それから相手の男が会社の名刺をよこしてきたということは会社の仕事として飛び込み訪問営業をやっているわけでだったらなぜわざわざ正式な会社見積もりではなく個人のそれも半値の見積もりを出してくるのだろうか。会社に損害を与える背任行為にもなりかねないのに。会社請負ではなく個人の内職として仕事を請け負い空き時間にこっそり稼ごうとしているということも考えられなくない。本社の電話番号ではなく支店のその電話に出るという相手とグルになって内職仕事をこれまでも同じような手口で請け負ってきたのかもしれないなあ。男とインターフォン越しにではあったけれど実際話してみて細かい点で他にもいくつか気になところもあった。そういった不安要素を打ち消すべく僕は仕事の休憩時間を利用してスマホでまずは名刺にあった会社名をグーグル検索してみた。その会社は実在していた。名刺の住所に本店と支社とが確かに存在している(ことになっていた)。電話番号もそれぞれ間違いない。ことさら悪い評判も出てこない。次に念のため「屋根修理」「詐欺」というキーワードで広く検索してみた。なんと驚いたことに出てくるわ出てくるわ。僕がついさっきまであれこれ疑問に思った点がまさに詐欺の常套手段として明るみになってくるのだった。いわく「近所で内装工事をしている」「雨漏りがするようになる」「屋根の一部が吹き飛んで迷惑をかける」「正式な見積もりの半額で請け負う」「デジカメ写真を見せる」「たまたま余った資材が使える」などなど。屋根修理の訪問販売は全部とはいわないまでもほぼそれに近い割合で詐欺だと断言しているサイトまであった。もはやこの時点でうちに訪ねてきたのも詐欺に違いないだろうと僕は疑うようになっていた。ひょっとすると名刺もどこかで盗んだものかあるいは名刺は本物でも連絡先にした支店の電話番の男とやはりグルになってひと儲けしようと企んでいるのかもしれない。名刺など置いてってもどうせ連絡してこないだろうとふんでその手口で相手を(この場合は僕を)信用させ後日あらためて偶然近くを通りかかったふりをして訪ねる。はは~んそうとわかれば名刺の男にこっちから連絡してこの際白黒はっきりさせてやろうという気持ちが僕のなかでむくむくと湧き上がってきたのです。でもその前に詐欺だという証拠がいる。明日朝いちばんでまず横山さんというお宅がうちの下にほんとうにあって内装工事中なのかどうかを確かめる必要があると僕は思った。その場に本人がいるか否か。

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さっそくあくる日の朝。散策がてらうちの近所一帯横山さんというお宅を探し歩いてみた。すると驚いたことに内装工事中らしき横山さんというお宅が実在したのだ。まだ時間が時間なだけに工事業者の人の姿は見えない。しばらく時間をおいてもう一度訪ねてみることにした。万に一つも名刺の男がいればもうひとつの疑問である見積もりの件の不信感を直接本人にぶつけてみようと思った。納得のいく解答がえられればたとえ男の内職仕事に加担することになるとしても屋根修理の件をちょっと本気で考えてもいいかなあくらいのことはその時点でまだ僕のなかにあったのだ(おいおい)。そろそろ横山さん宅の工事が開始される時間になった。業者の人らしき姿がふたり横山さん宅の前で立ち話をしている。僕は思い切って昨日ポストの中に入っていた名刺を見せこれはおたくたちの会社の名刺ですかとダイレクトに訊いた。するとふたりは名刺をかわるがわる見ながらこんな業者は自分たちは知らないという。少なくてもここの内装工事は自分たちの会社が請け負ったもので名刺にある会社はいっさいかかわりがないといい切った。あっと僕は思った。もうこれは完全な鷺もとい詐欺ではないかと(この期に及んで)。あやうくひっかかるところだったじゃないか。あぶねえあぶねえ。横山さん宅の内装業者にお礼をいって引き上げる途中僕は怒りというよりなぜか猛烈に可笑しくなって事実声に出して笑った。家に戻りすぐさま名刺のいわれた番号に電話をかけた。頼りない声のべつの男が電話口に出て名刺の会社名を名乗った。僕はくだんの男の名前を告げ至急連絡を取りたい要件があるので呼び出してほしいと伝えた。すると折り返し詐欺男(!)からのうのうと電話がかかってきた。実はね僕はこの電話をする前から決めていたことがひとつあってそれはこっちは詐欺だということに気づかなりふりをして懇意にしている業者から見積もりを取ることにしたから今回は縁がなかったものと諦めてくれと伝えるつもりでいたのだ。相手の男をいたずらに追い込んだり刺激したり警察案件にしようなどとはもはや毛頭考えていなかった。だってかえって危険だもの。僕がそうやって丁寧に断りを入れると男は少しがっかりした様子だったがすぐにも納得して向こうは向こうで会社に内緒の悪事がバレるのが不安だったのか本社には何もいってませんよねと逆に畏まって訊いてきたくらいだ。大丈夫です安心してくださいと僕は電話口でそう告げた。男も僕もそれで電話を切った。それきりだ。それきりだとそのときは僕も思ったのだが実はそのすぐあと別の業者を名乗る男がやはりうちのすぐ近くの○○さん宅で内装工事をしていて偶然お宅の屋根の一部がはがれかかっているのが見えたのでこのままでは危険だし雨漏りがするようになるかもしれませんよお安く修理しますよとインターフォンを鳴らしたのでした。可笑しさ半分怖ろしさ半分でもちろんその訪問販売も僕は断固として断った。うちの奥さん調べによるとそういう屋根修理の訪問販売(詐欺)業者はカモになりそうな家の表札などに一見わからないような目印をつけていくというのだという(マーキング)。それを聞いて僕は表札や門扉や植え込み周辺を隈なく探してみたがそれらしき目印はとうとう見つけ出せなかった。僕が見つけ出せなかっただけでいまもそのマークはうちの屋根はカモだぜということを仲間の業者にこっそり知らせているのかもしれません。あと最初は簡単な雨漏り修理とかの小口契約でもなんやかんやといい含めてきて最終的には相当高額な契約を結ばされるケースやうちよりもっともっと質の悪い詐欺事案もあるそうなので気をつけてください。そうそう肝心のうちの屋根なんだけど実はまた僕自分ちの屋根に上がって破損具合を確かめてないので本当のところどうなっているのかわからないままなんですよね。まあ雨漏りは実際のところなんとかしたいなあと思っていますが。