ヒロシコ

 されど低糖質な日日

そもそも手帳って必要なの?

あっという間に11月になり、そろそろ来年のカレンダーや手帳が話題になってきた。手帳といって僕がまっさきに思い浮かべるのは『舞踏会の手帖』という戦前のフランス映画のことだ。未亡人となった若い女性がはじめて出た舞踏会の手帖を頼りに、昔いっしょに踊った相手を探し訪ね歩くというもの。

名画座にさえかかることのない古い映画が僕はどうしても見たくて、大学生のころ、フィルム会社にフィルムをレンタルしてもらい、大学の空き教室をおさえ映写機を借り、学生や先生たちから赤字が出ない程度の料金を徴収して上映会を企画したことがあった。『舞踏会の手帖』はその第一弾として上映した映画だったのだ。

という思い出話はさておき、今回は映画の話ではない。あくまでも実用的な手帳に関する話です。いまやすっかり手帳業界で定着した感のあるほぼ日手帳や、あいかわらず世界的に愛されているモレスキン、シンプルで機能的なコクヨのジブン手帳、手帳は高橋のビジネス手帳などなど、この時期枚挙にいとまがないくらいの手帳がデパートの文房具売り場を所狭しと占拠している。

僕もご多分に漏れずかつてはそういう場所へ行くたびに、「来年はどんな手帳にしようかなあ」とわくわくしたものだった。でも実はそうやってさんざん悩んだ末に買った手帳を一年間通して使い切った試しがない。

毎年毎年はじめのうちこそ何かを書き込んではせっせと空白を埋めていても、あるときからその何かがいったい何なのか、いやそもそも手帳の空白を埋める何かが自分にはあるのかさえ覚束なくなり、もともと無理やり何かを書き入れていたのだという事実を認識するのにたいして時間はかからなかった。というか最初からその事実に僕は気づいていながらつい習慣のように(惰性でと言っても差し支えないが)、年末になると来年の手帳を物色し新調していたのだ。

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だいいち僕の仕事は昔も現在もいわゆる内勤といわれる類のもので、営業職などとは違い得意先に何日何時に出向くとか、取引先の誰それと会社以外のどこかで打ち合わせがあるとか、そういったスケジュールがほとんど皆無だ。あってもそのてのスケジュール管理は会社のカレンダーにでもメモしておくか付箋を貼りつけておけば事足りた。

かといって仕事の上で閃いたアイデアを忘れないように書き留めておかなきゃというようなクリエイティブな職種でもないし、必要な数字や記録として残す必要のある事項も、それには日報という社内共通のテンプレートがちゃんと用意されていたのだ。なので仕事上、僕が本当の意味で手帳を必要としたことなど断言できるが一度としてない。

ではプライベートではどうかというと、僕には他人に誇れるような、あるいは逆に内緒にしておきたいような趣味を持ち合わせてはいないから、そういう仲間との付き合いも発表会も大会の日程もない。元来人づきあいがそれほど得意ではないせいもあり、結婚式に呼ばれたりホームパーティに招かれたりする間柄の親密な友人・知人もない。

子どもたちの学校行事はそういうプリントが配布されたので家庭内のカレンダーに移し替えておけば十分だったし、PTA行事に積極的に参加する方でもなかったからね。町内会の付き合いなどもっての外。一日の終わりに書く日記代わりのことは、さいわいブログ(かつてはホームページと言ったが)でまかなえていたしそれはいまでもそうだ。見た映画の感想も読んだ本の感想も気になった料理のレシピもどれもこれも全部。

だいいちいまこそスマホのメモもあって必要ならスマホで簡単に写真を撮って残せる。ま、ほとんどそういう機会すらもないけどな。まとめるとつまり、僕の場合仕事上の詳細なスケジュール管理は基本必要なし。閃いたアイデアのメモが後々重要になるというような仕事でもなし。プライベートで友だちもいないので個人的な付き合いもなし。日記やちょっとしたメモ代わりのことは、ブログやスマホ(写真も含め)で済ませている。それだって一生残しておきたいようなことはめったになし。というわけだ。

となるといよいよ手帳って僕には必要なの? 人前でスーツの内ポケットからさっそうと手帳を取り出しスケジュール確認したり、カフェで友人たちに囲まれながら次に会う日程を忘れないようメモし合ったり、趣味の食べ歩きで立ち寄った店のメニューや値段、店の外観や印象をそそくさとメモったり、といったシチュエーションが残念ながら僕には想像できないのだ。

さすれば、僕以外のみんなはいったい手帳をどういう具合にどんな道具として使っているのだろう? そもそも手帳って必要なの? 頭の中で覚えておけないような、スマホのメモや写真では済まないような複雑な予定や要件が日々目白押しなのだろうか? けっして厭味ではなくね。手帳、その謎はけっこう深いよなあ。

今年もデパートの文房具売り場に設えられた手帳コーナーを横目に、ここに並んでいるようなおしゃれな手帳を使いこなせる人生もどこかにあるにはあるんだろうなあ、となかば羨ましく思いながら僕はその場をそそくさと通り過ぎる。あ、ちなみに病気持ちの僕はいざ何かあったときのために、「おくすり手帳」というのを常時携帯してますけどね。