ヒロシコ

 されど低糖質な日日

平易なのに読めない漢字ベスト10

「躊躇(ちゅうちょ)」とか「薔薇(ばら)」とか「檸檬(れもん)」というアホみたいに画数の多い漢字を、辞書も見ずにさらさらと書ける人は実にかっこいい。「侃侃諤諤(かんかんがくがく)」とかね、なんだか火星人と金星人が連なって歩いているような四字熟語だって平気ですらすら書いちゃう。そういう人はきっとモテるんだろうなあと思う(そこかよ)。

例えば100人くらいのOLさんたちを前にして、「コンシューマのゲマインシャフトがアンビリーバブルなんだよ」なんていってるニヤケた浅黒男より、「ここにひとつの檸檬があると仮定します。みなさんは梶井基次郎の『檸檬』はご存知ですね?」などと言いながら、ホワイトボードに「檸檬」とさりげなく漢字で書く姜尚中先生みたいな人のほうが百倍モテそう。うしろの方で「きゃー、見えませ~ん」という黄色い声も飛び交ってね。

そんな妄想をすると僕も、ああ漢字練習しようかなあ、と思うわけだが、なかなか実行には至らないですね。なにしろ動機が不純だから。もっともパソコンだったら「tyuutyo」「bara」「remonn」などと入力しさえすれば勝手にそれらしい漢字の変換候補が出てくる。そのなかから適当なのを選ぶだけでいいから、ニヤケた浅黒男でももちろん僕でも、簡単にそういう漢字が書けるのが悔しいところだ(悔しいのか)。

というか、そもそも100人のOLさんたちを前に「檸檬」という漢字をホワイトボードに手書きする機会なんて一生に一回あるかないか、ま、ふつう100パーセント以上ないだろうからいいとしても、案外デートの最中に易しい漢字が読めなくて恥ずかしい思いをすることなら姜尚中先生でなくてもちょいちょいあるだろう。

僕の場合、以前家族団らんのときに「そういう、しいの人たちの気持ちを汲み取ってやるのが政治家のつとめなんだよ」とつい熱弁をふるってしまったことがある。するとたまりかねた上の子に、「しい」じゃなくて「しせい」ね、「市井」って書くんでしょ? と漢字の読みの誤りを軽く指摘されてしまった。あれ、みっともなかったなあ。かーっと顔が赤くなるのがわかった。もういろいろなことが一瞬で終わったなあって。

僕の苦節何十年という人生、「市井」を「しい」と読むのだとばかりこれっぽっちも疑わなかったからね。なんなら「いちい」と読み間違わないよう注意しようと思ってたくらいだし。ことほどさように、僕は漢字に弱い。これが僕史上、平易なのに読めなかった漢字ベスト10の第1位にランクイン。

ところがなんと、アメリカのオバマ大統領が広島を歴史的訪問した際、安倍首相はおそらく官僚が作成したスピーチ原稿を読むなかで、「原爆でたくさんの市井(しい)の方がなくなった……」と、堂々と「市井」を「しい」と誤読してしまった。よもや共産党の志位委員長の顔が突如浮かんだわけではないだろう。ただ僕的にはなんだかちょっとホッとするニュースでしたね。

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第2位は、たとえば町を歩いているとき、よく目につくお蕎麦屋さんの暖簾(のれん)や看板に、よく「生そば」と書いてある。あれずっと僕はなんて読むのか自信ないまま、せいぜい「なまそば」か「きそば」だろうなあとは見当つけてたんだけれど、そしてまさか「せいそば」とは読まないだろうと。みなさんはもちろん正解をご存知ですよね?

そうです「きそば」です。本来はつなぎの小麦粉を混ぜない、そば粉だけで作ったそばのことを言ったそうだが、現代ではだいたいそば全般を「生そば」と言うようだ。単に配合だけなら「十割(じゅうわり)そば」とか「二八(にはち)そば」とかいいますね。余談ですが蕎麦、僕は糖質制限をはじめて以来、かれこれ5年近く実は一度も口にしていない。

蕎麦ついでに「強力粉」は「きょうりきこ」で、「きょうりょくこ」ましてわざわざ難しく「ごうりきこ」などとは読まない。剛力彩芽じゃないんだから。ややこしい話をすると、英文を読むとき頭のなかでいったん日本語に変換して意味を理解するみたいに、この漢字の読みもいったん「きょうりょくこ」と読んだのをいちいち「きょうりきこ」と変換し直す作業を瞬時のうちにしているのだ。そんなわけで「強力粉」第3位。

蕎麦といえばダシですが、これは「出汁」と書く。もちろん「でじる」ではない。これが第4位。「素麺」が「そうめん」というのは、なんとなく感覚でわかる。悩むのが「肉汁」で、これは「にくじゅう」が正しいらしいのだけど、「にくじる」かどうか。というか、テレビの料理番組ではときどき「にくじる」っていってる場合もあるような気がする。いわゆる慣用読みというやつで、もはやどっちでもいいのかもしれない。「肉汁」は第5位。

なんかテキトーに順位つけてますが、ホント思いつきだけでテキトーにいい加減だからね。怒らないように。第6位は、女の子とデートしていて恥ずかしい読み間違いの代表ともいえる「月極(つきぎめ)駐車場」。僕もかつてはそう読むなんて知らなった。さすがに有名になったからいまは知ってるけど。通りすがりに「げっきょく?」と声に出さずそう読んでた時期もあったのだ。

「げっきょく駐車場かよ」なんてうっかり声に出してしまって、「え? 結局駐車場って何が結局なのよ」と女の子にバカにされずに済んだのは、あるいは運がよかっただけなのかもしれません。どんどんいきましょうか。第6位「幕間」 は「まくあい」、「まくま」ではありません。これも僕はずっと勘違いしていた。第7位。この漢字辞書の「凡例(はんれい)」は非常にわかりやすい。はい、わりと最近まで「ぼんれい」と思ってたな。

第8位。新聞でよく見かけるベストセラー本の「重版出来(じゅうはんしゅったい)」広告。さすがに「じゅうはんでき」ではないだろうと察していたものの、正確になんと読むのかずっと気になっていて、あるときなにかの拍子で正解を知った。第9位の「貼付(ちょうふ)」も、慣用読みの「てんぷ」の方が正しいと思っていた。

あ、慣用読みというのは、正しくは誤りだけど、もうそっちでもいいじゃん許しちゃおうよ、いやむしろいまはそっちの読みのほうがふつうかもね、という読み方のことを言う。ということで、恥ずかしながら平易なのに読めなかった漢字ベスト10まとめると――。

  1. 市井(しせい)
  2. 生そば(きそば)
  3. 強力粉(きょうりきこ)
  4. 出汁(だし)
  5. 月極(つきぎめ)
  6. 幕間(まくあい)
  7. 凡例(はんれい)
  8. 重版出来(じゅうはんしゅったい)
  9. 貼付(ちょうふ)

ことさら難しい漢字は、はじめからまったく読めないし、読もうともしない。あるいはむにゃむにゃごまかしたりする。一方、簡単に読めそうな易しい漢字ほど怖いものはないというか、うっかり落とし穴が待ってるよなあというのはまさに実感ですね。

そしてそれは他のことにも同じことが言えて、易しく平明な文章ほど実はとっても奥深いことがらについて書いてあったり、簡単そうな料理ほど料理人の腕が試されるものはなかったり、扱いやすそうな相手だななんて油断してると、あとでとんでもないしっぺ返しを食らったりする。重々注意したいものだ。

では、「名残惜しい(なごりおしい)」ですがこのへんで、というのを第10位として終わります。あなたは全部読めましたか?