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『ブレードランナー2049』少しネタバレ感想~結局ブレランは『猿の惑星』になってしまうのか?

『ブレードランナー2049』(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督)を見た。いわずと知れたリドリー・スコット版の続編。前作は2019年の未来の世界を描いたSFだったがその2019年もうかうかしているうちにあと1年余りと迫ってきた。あの頃の未来に僕らは立っているのだろうか。そう歌ったSMAPもいまはもうない。だからというのでもないだろうが満を持しての続編の登場と相成ったわけだ。僕は前作というかオリジナル版が大好きで生涯10本の映画を選べと言われたら迷わずそのうちの1本には数える。そんな大好きな映画の続編ともなれば見る前から期待値というハードルはMAXに高まっていた。その分不安も同じように大きかったけど。実際劇場でたびたび目にした予告編だけではいったいどういう内容の映画になっているのか杳として知れなかったもの。レプリカントがビニール袋のなかから生れ落ちてくるシーンだとか見せられてもねえ。あそこ妙に生々しくかつ笑えたから。


『ブレードランナー 2049』日本版予告編/シネマトクラス

『2049』はこんな話だ。その頃の未来にも一時期製造が途絶えたレプリカントは依然存在するが開発はタイレル社ではなくウォレス社に引き継がれていた。タイレルが製造した旧型のレプリカントを解任(始末)するため奔走するブレードランナーK(ライアン・ゴズリング)。ロサンゼルス警察に所属する彼もまた新型のレプリカントだった。Kはとある事件の捜査でかつて優秀なブレードランナーとして活躍したデッカード(ハリソン・フォード)とともに姿を消したレイチェルの遺骨を発見する。あろうことかレイチェルにはレプリカントにもかかわらず赤ん坊を出産した形跡が認められた。もし事実だとしたらまさに奇跡である。Kは任務として赤ん坊の行方を追う。だが赤ん坊の行方を追っているのはK(およびロサンゼルス市警)だけではなかった。ウォレス社のウォレス代表。それからレプリカント解放組織のメンバーたち。Kは次第に自分の記憶が行方不明の赤ん坊が持っているであろう記憶と重なるのを意識しはじめる。もしかしたら自分こそがレイチェルとデッカードの間に生まれた奇跡の赤ん坊なのではないか。それを確かめるべく古い資料を調査したり記憶のデザイナー・アナ博士に会いに行くのだ。やがて疑念は確信へと変わっていく。そしてとうとうKはデッカードの行方をつきとめる。あるいは父親かもしれないデッカードと対峙するK。とまあこれ以降は激しくネタバレしてしまうので書かないがまあだいたいそんな話なんですね。およそ160分の堂々たる長編です。目も眩むような映像美がとにかく素晴らしかったですね。濃い霧かガスに覆われたような電飾きらびやかな都市空間はますます退廃していた。そのぶん生活の強いエネルギーみたいなものはやや後退して感じられたのが個人的には少し残念。都市部とは対極にある農村地帯はどこまでも果てしなく荒涼として痩せ衰えて見えた。この格差こそ来るべき未来の地球の姿なのかもしれないと思った。そんなともすれば大昔の農村地帯に戻ってしまったような大地にあの最新鋭のスピナーが離発着するシーンのSF感には激しく興奮を掻き立てられた。アナ博士の研究室で見せられた幻想の森林空間は目に痛いばかりの濃い緑だ。放射能の影響で人類が容易に立ち入れないであろう砂漠地帯と化したラスベガスの廃墟に埋もれかけた巨大遺跡も目を惹く。まるで『猿の惑星』のラストシーンに登場する砂浜に埋もれた自由の女神像を連想した。その砂漠地帯に忽然と現れる養蜂場の蜜蜂の群れ。そこだけ生命の躍動を感じるというアンバランス。それらがみなどれも意味ありげで案外ただのこけおどしに過ぎないのではないかという居心地の悪さが終始つきまとうのだった。中盤AIホログラムのジョイ(アナ・デ・アルマス)とKとの疑似セックスシーンというのがある。ジョイは肉体を持たないので旧型のレプリカント娼婦が肉体を提供する。ではKはどうなんだろう。Kは女性の肉体をを欲していたのか(つまり性欲)それともジョイの愛情で満ち足りていたのか。Kの真意がいまひとつ不明確なままのセックスはジョイとレプリカント娼婦の体が微妙にシンクロしないというなんとも居心地の悪いセックスシーンとして具現化された。レプリカントとレプリカントとAIホログラムという三つ巴の史上初めてのセックスシーンとして記憶(記録も)されるかもしれない。『her/世界でひとつの彼女』とも違う新しさだった。

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総じて舐めるようなカメラワーク。互いに噛み合わない意味ありげな台詞回し。こういうのはともすれば批判の対象になりかねない。ただ僕は思うのだが村上春樹さんの小説にやたら比喩が多いとか台詞が映画の字幕みたいだなんて批判してもしょうがないようにそれこそが作家性というものなのだろう。リドリー・スコットさんが自ら続編を撮らず別の監督に任せた以上その監督のリズムで映画は撮られてしかるべきものなのだ。あとはそのリズムに個々の観客である僕らが乗れるかどうか。まあ正直いうと僕はちょっと間延びしすぎたかなあという印象でしたが。前作に続いて巨大な瞳孔のアップからはじまるところ。老いたガフの登場。折り紙。なによりデッカードとレイチェル。前作を知っているものにとってはご褒美のような演出がうれしかった。一方で新キャラとして登場したウォレス社の代表ウォレス(ジャレッド・レト)とその片腕の女性レプリカント・ラヴ(シルヴィア・フークス)の圧倒的存在感。ロサンゼルス市警のKの上司・ジョシ(ロビン・ライト)は『007』のMを思わせる威圧感だった。Kがどんなに優秀なブレードランナーだとしてもあの毎回(もしくは任務を終えるごとに)くり返される執拗な感情のコントロールテストみたいなものはレプリカントの人格を(?)を深く傷つけるだろうなあとやるせなく思った。近未来とはいえKの暮らしぶりも『アパ-トの鍵貸します』のジャック・レモンの独身生活と根本的にはなんら変わらないわびしい風情だった。だからこそ余計AIホログラム・ジョイとの交流に心和むのだしKが画一的なレプリカントではなく特別な存在になりたがるのも頷ける話だ。せつない。そのせつなさにライアン・ゴズリングさんはまたピッタリ嵌まっていた。Kたちレプリカントは警察内部でも「人間もどき」と蔑まされている。だがやがてレプリカントたちなくして世界は成り立たなくなるのは誰の目にも明らかだろう。あるいはこのまま一部レプリカントの反乱が続けばいずれ『猿の惑星』と同じ轍を踏むことになりそう。というかこっちの方が猿の惑星よりもより現実感がある気がしますね。「猿は猿を殺さない」と自己主張したシーザーのような偉大なレプリカントが登場したとき人類ははたしてどういう対応を迫られるのだろうか。この映画はまたBlu-rayが出たころにでも見直して詳細なネタバレありの感想を書いてみたいですね。なおいまならWOWOW会員にかぎりメンバーズオンデマンドで『ブレードランナー』(ファイナルカット版)が無料で見られます。

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