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『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』結末まで完全ネタバレ感想~まだまだ猿の惑星にはならないかもよ

『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』を見た。「創世記」「新世紀」と続く『猿の惑星』プリクエル(前日譚)三部作の第三弾。面白いよねえこのシリーズ。すごく楽しかった。返す返すも本作が最後だなんて寂しい限りです。「そして(地球は)猿の惑星となる」のだそうだ。そうだというかでも最初の『猿の惑星』に至るまでにはまだまだ長い年月が必要だなあと思った。この期に及んでなお循環の輪はすっかり繋がっていないのだ。人間側の政府軍の本体が全滅したのかどうかわからない。わずかに生き延びた人間たちの反乱だってあるだろうし。猿の側だっていつまた権力争いが勃発するやもしれない。猿の文明はこれからもっともっと進化を遂げるに違いない。そういう不確定要素を孕みつつも一旦はこれで幕引きするということか。猿たちはようやく安住の地を見つけたばかりなのだ。そしてなにより大ヒットシリーズの続編というリアルな人間たちの商魂がこれでおしまいとはとても思えないからね。きっとまた新たな三部作ともいうべきものが誕生することでしょう。

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さて本編だが人間がどんなに愚かに描かれようともこの映画を見るのもまた人間であるということを僕はしみじみ思った。どんなに猿の側に正義があろうとも人間を滅ぼす直接の要因が猿の側にあってはならないということだ。実際猿たちのリーダー・シーザーは自分から猿の惑星を作ろうなどとはちっとも考えていない(ということになっている)。出来たら人間と共存共栄を図りたいと願っている。俺らのことそっとしといてくれたらあんたらにもべつに危害を加えるつもりはないしあんたらの領域は犯さないからと。なのに人間側の一部狂信的な部隊の大佐はそれを拒む。大佐は裏切った仲間の猿の手引きによりシーザーたちの居所を特定し彼の妻と息子を殺すのだ。俄かに復讐心に囚われはじめるシーザー。仲間の群れを砂漠の向こうの約束の土地へと向かわせ自らは単身大佐のいる居留地を目指す。この「聖戦記」というのは猿たちのリーダーであるシーザーの復讐劇だ。僕らはその時点ですでにシーザーの味方になっている。にもかかわらずこの復讐劇を安易に正当化しないところが脚本のミソだろう。シーザーの周りには常に彼を諫める猿がいる。シーザー自身も絶えず自問自答を繰り返している。自分とコバ(前回の「新世紀」で人間に刃を向けた猿)とはどう違うのかと。僕個人についていえば途中から自分が人間だということも忘れて完全に猿のシーザーの行動を支持していた。孤高のリーダとしてのシーザーの気高さと勇気に感動していたのだ。それでもなお「人間がどんなに愚かに描かれようともこの映画を見るのもまた人間である」ということを努々忘れなかった製作者たちの姿勢を高く評価できると思った。ただ一方でその呪縛に囚われ過ぎたのか「聖戦記」というわりには最期なんだかあっけなかったなあという恨めしさは残る。猿対人間の最終最大決戦を期待した向きには肩すかしもいいところだったろう。そのあたりのことをもう少し詳しく書く。人間側の狂信的な部隊の大佐によって妻と息子を殺されたシーザーは大佐への復讐を誓う。ちなみにこの大佐。『地獄の黙示録』でジャングルの奥地に独立王国を築いたカーツ大佐を彷彿させた。とすればさしずめシーザーはナン川を遡上するウィラード大尉である。ウィラード大尉同様シーザーにも彼を慕うオラウータンのモーリスら数人(数猿?)の仲間がついてくる。ここからはまさにロードムービーの在り様だった。途中ダウンジャケットを着たおしゃまな猿バッド・エイプや言葉を喋れない人間の少女ノバも一行の旅の共に加わる。ノバ以外にもしゃべれない人間たちが無残に殺されかけているのをシーザーたちは見かける。猿インフルエンザの蔓延によって喋れなくなる人間が増えたのはとりもなおさず猿と人間の反転現象が起きている象徴的な出来事として面白い設定だなあと思った。『猿の惑星』の喋れない人間たちの起源がここにあるのかとイマジネーションさせる。でそうこうするうちにシーザーたち一行は大佐が居留する基地に辿り着くのだが油断したシーザーはたちまち基地に捕らえられてしまう。基地には先に出発したはずの群れも捕えられていた。猿たちは(命令に従わない)大佐を抹殺するためやってくる人間の政府軍に備えた基地の壁作りに水も食料も与えられず働かされていた。オラウータンのモーリスとノバは基地に忍び込みシーザーを助けようとする。そこから展開するシーザーと猿の群れの脱出劇はハラハラドキドキ手に汗握る面白さだった。『地獄の黙示録』に続いて今度は『大脱走』というサービスぶり。捕えらえた監獄に地下から穴を開けるための目測なんて『大脱走』の逆バージョンで笑える。ところが大佐がノバの持っていた人形を触ってしまったことからインフルエンザを発症。ついには自害してしまうという急展開の運びとなる。さらにほぼ時を同じくして政府軍が大佐の王国へと一気に雪崩れ込む。この人間vs人間の争いの煽りを受け基地を取り囲む雪山に本物の雪崩が起こる。あれよあれよという間に政府軍・大佐軍ともども全滅してジ・エンド。基地から命からがら脱出したシーザーたち猿の群れはこの雪崩からもまた生き延びるのだった。「そして、猿の惑星になる」というキャッチコピーはここからきた。人間の自業自得ということがはっきりして若干鼻白む思いがしたのは事実だ。シーザー率いる猿の軍団が対人間の全面戦争において完膚なきまでの大勝利を挙げたわけではなかったからね。だがここでもう一度思い出さなければならない。人間がどんなに愚かに描かれようともこの映画を見るのもまた人間であるということを。どんなに猿の側に正義があろうとも人間を滅ぼす直接の要因が猿の側にあってはならないということを。なので前述したとおり「聖戦記(グレート・ウォー)」というタイトルからすると物足りなさも残るがこういう決着にでもしないかぎり収まりがつかないだろうなあという納得感はあった。苦肉の策とはこのことだ。シーザーは群れが約束の土地へたどりついたことを確認して静かに息を引き取る。彼のまだ幼い息子コーネリアスがモーリスを後見としてシーザーの跡を継ぐことになるのだろうか。コーネリアスと無邪気に遊ぶ人間の少女ノバの存在が気になる。猿の惑星になるまでにはまだまだ予断を許さないだろうなあと思わせる感慨深いラストシーンだった。 猿たちの造形についてはもはや何も言うことはない。ただ素晴らしいの一語に尽きる。大佐のキャラクターについてはもうひと工夫あってもよかったかなあと思った。工夫というよりズバリ狂気さが足りなかった。あとこれ本作とは何も関係ないが猿同様利口な動物として知られる馬を猿たちは人間のように乗り回しているがそのうち喋れる馬が現れたら「猿の惑星」はいずれ「馬の惑星」になっちゃうかもね。

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