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金曜ロードSHOW!「2週連続 夏はジブリ」第1弾『借りぐらしのアリエッティ』第2弾『思い出のマーニー』ネタバレ感想

7月7日と14日の2夜連続でジブリの『借りぐらしのアリエッティ』と『思い出のマーニー』が金曜ロードSHOWに登場する。そこで僕が以前やっていたブログから2作品を劇場公開時に見たときの感想を一部加筆修正して再投稿します。この企画もできれば恒例にしたいですね。

『借りぐらしのアリエッティ』感想

『借りぐらしのアリエッティ』を見る。短い映画だったけれどその短さがちょうどいい感じの映画だった。なにしろ人間の屋敷の床下に住んで生活に必要な物資を人間に気づかれないようにこっそり借りてきて暮らす小人というか妖精の話だからね。スモールサイズの話だ。もし人間に姿を見られたら直ちにその家から(といっても床下からだけど)引っ越さなければならないという厳しい掟が彼ら小人たちにはある。この掟がいい具合に映画に緊張感をもたせストーリーを推し進める駆動力にもなった。アリエッティはそんな小人の少女だ。ある夏の日アリエッティは心臓病の療養のためにやって来た少年・翔に姿を見られてしまう。そこからはじまるふたりのというか人間の少年と小人の少女の淡い恋心とせつない別れの物語です。 なんといっても小人の目から見た人間界という構図が出色の出来だった。物も音も桁外れな大きさで小人たちには迫って見える。アリエッティと彼女のお父さんが角砂糖1コとティッシュイ1枚を借りに行くだけの場面がそっくりそのままマット・デイモンさんやアンジェリーナ・ジョリーさんの映画みたいになるのだ。たったそれだけのことが命がけの途方もない冒険活劇になるのだった。小人たちの目を通して見える人間界はそれほど驚きと危険に満ちた場所なのだ。アニメーションはそういう見た目のディテールまでていねいに十分リアリティある(寸尺までそっくり本物ということではなくそう見えるだろうなあという意味で)仕上がりになっていて感激した。それから翔がアリエッティのためにお祖母さんのドールハウスをプレゼントしようとするシークエンス。良かれと思ってする行為が相手の立場になってみるとただの迷惑な行為でしかないという展開が面白いなあと思った。もちろん人間同士でもこういうことよくある。人種・国籍・男女の違いなどでも日常茶飯事で起こりうることだ。相手のためにと思ってする行いやふだん自分たちがなにげなく習慣でやっている行いが知らないうちに相手を深く傷つけてしまうとか。場合によってはそれが戦争にまで発展してしまうこともある。まして人間と小人という異世界の間柄ではなおさらですよね。面白いといえば小人たちが人間界から生活に必要最小限のものだけを拝借して暮らすことを「狩り」と「借り」にかけているのも面白いなあと思う。返す当てもつもりもないのだから厳密にいえば「借りる」ことにはないらないがなあに人間だって自然界から生きていく上で必要最小限のものだけをありがたく感謝しながら拝借して暮らしているのだ。人間も小人たちも自然もみんな穏やかに共存して暮らしていこうよという静かだが確かなメッセージが伝わってくる。まあそのあたりのことも異世界間での異なる視点の問題にしても映画の手柄というよりそもそも原作の手柄なのかもしれません。思いっきりネタバレするがそんなアリエッティと翔は「美女と野獣」のようにハッピーエンドとはならなかった。もっとも「美女と野獣」のハッピーエンドだって僕は最後野獣がステキな王子様に変身してメデタシメデタシなのが気にくわないと長年思ってきたのでこの『借りぐらしのアリエッティ』のいささかほろ苦いラストはけっして嫌いではない。お互いそれぞれの場所でせいいっぱい力強く生きていくという希望を込めてそれもメデタイ別れではないかと思うのだ。アリエッティは滅びゆく種族となるのをくい止めるための旅に出て翔は心臓の手術をしてふたたび生きようという勇気と気力を得たのだから。あと全体的にメルヘンチックな物語に終始しがちなところをお手伝いのハルばあさんだけがひとり悪意のメタファーとして存在していたのも僕は映画のためにすごくよかったなあと思う。借りぐらしの小人といえどありていにいえばアリエッティも泥棒の小人だからね。ハルばあさんのこれがまあ一般的常識的な考え方なんだよなあと思い知らされる。途中まで映画をみているあいだは自分が翔の立場でアリエッティを見ているようなうぬぼれを抱いていたがたぶんというかきっと僕もハルばあさんなんだと気づかされてハッとした。楽しい映画でした。 追記)別れの場面で翔の指のアップにアリエッティがそっと身を寄り添わせ語りかけるシークエンスだが誤解を恐れずにいうとあそこ何度見てもちょっと生々しいというか失笑しちゃうくらいエロチックな作為を感じてしまう。リアリティからいえばとくだん問題ないし百歩譲ってそういう意図があったにしてもだったらなおさらあの場面であの構図は要らないんじゃないかなあと思う。全体の引きのアングルとアリエッティの顔のアップだけでいいような気がするのですがどうでしょう。

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『思い出のマーニー』感想

『思い出のマーニー』を見に行く。期待以上の面白さでした。以下内容や結末にも大きく触れながら感想を書きます。完全ネタバレ。でもそれはいわゆる僕が理解したことなのでまたべつの人が見たらべつの解釈なり感想があるんだろうと思う。はじめにストーリーをざっくり書いておく。表向きはぜんそくの療養と実際には閉ざしたこころのケアのためにたったひとりで海辺の町へやらされた少女・安奈のひと夏の成長物語だ。安奈はその町で不思議な少女マーニーと出会いたちまち友だちになる。もともと友だちがいなかった安奈がなぜいともたやすくマーニーに惹かれ彼女とだけは友だちになれたのかというのがこの物語の最大の謎になるわけだけどまあそれについてはあとで書くとしてストーリーを進めるのはマーニーではなく明らかに安奈のほうですよね。でも僕は正直いうと安奈という少女のことがなかなか好きになれずずっとそういう居心地が悪いままこの映画を見ることになった。安奈という少女はのっけから「この世には魔法の輪がありその内側にいる人と外側にいる人がいてわたしは外側にいる」とわかったようなことをいう。さらに「わたしは自分のことが嫌いだ」ともいいます。引っ込み思案なりに表向きは無理して礼儀正しくふるまうが陰ではこっそり悪態をついたりするような子。どこか大人を(というか他人を)バカにしているふうなとこがある。だけど僕はそういうのがイヤなんじゃなくて実は僕自身もずっと自分があまり好きではなく大人に対しても同級生に対しても妙に冷めてるまるで安奈のような子だった。僕は安奈よりもう少し世知にたけていたけどね。つまり自分のことが嫌いな僕が自分とおなじような安奈を見て「わかるわー」と思ってもそこで同調するわけがない。好きになるわけがないというなんか奇妙な理屈ですが自分自身のイヤな側面をあらためて見せられているような居たたまれなさを感じていた。さっきの輪の内と外の話もそうだけど安奈は(と他人事のようにいいますが)自分で勝手に境界線を線引きしたりものごとを「こうだ!」と決めつけてしまうところがあるなあと。そしてその線引きにいちばんこだわってるのが実は自分なんだということに気づいていない。自分はもらいっ子だから養父母に愛されてないんだとか養母のことはほんとうのお母さんじゃないとか役所からの補助金ほしさに自分を養育しているんだとかそんなことがたいして重要ではないなどとぼくはいうつもりはないがだけどそういうことをたしかめもしないうちから決めつけて自分の世界を狭くしていることに安奈は気づいていないのだ。でも一度それをはっきりいい当てられたことがあった。お祭りの夜。地元の友だち(候補?)といいあらそいになったとき「あんたはあんたのようにしか見えないんだからね」と安奈は指摘される。「いまさらいい子ぶったってあなたが思ってることくらい顔や態度に出てるわよ」というふうにも「でもそれはみんなそうなんだから殻に閉じこもってないで自分から出てこなきゃダメよ」というふうにもとれる。いずれにしても「あなたはあなたなのよ」という僕は他人を肯定する温かいメッセージだと受け取った。こういう子を友だちにすればいいのにと思うけれどやっぱりそうはやすやすとならない。「太っちょ豚」と安奈にヒドイあだ名をつけられたその子は意外やなかなか鋭い観察眼があって安奈の目の色が少しブルーだということにもすぐ気づくのだ。これは安奈とマーニーの謎を解くひとつの鍵になる部分だけになにげないシーンだけど面白いなあと思った。話の展開としてここから安奈は一気にマーニーにのめり込んでいく。マーニーのことを書くのがどうもためらわれるのはそれにはマーニーとは何者なのかということに触れないではすまされないからだ。まず安奈がマーニーと出会う前にマーニーが住むお屋敷を見つけるわけだけどそれは安奈がこの町でお世話になってる家のおじさんから教えてもらった近道をとおったあとというところがひとつのポイント。近道というのはほかの映画のルールを持ち出すのもアレだけど要するに異世界との扉というか異世界につながる道なのだ。そうしてマーニーのお屋敷はこの海の町の深い入り江の向こう側に立っている。そこは干潮時には湿地帯となり歩いて行けるが満潮になるとボートでなくてはいけない場所。潮の満ち引きというのは人の生死のメタファーだ。僕は子どものころ父方の祖父の臨終の場に立ち会ったときお医者さんが「明け方の5時がきょうの干潮だからおそらくそのころでしょうね」というのをはっきりとこの耳で聞いたのを覚えている。人は満潮で生まれ干潮で死ぬということをあのとき知った。要するに入り江の湿地帯はその境界だといっていい。――以下ほんとうにネタバレしますよ!マーニーとは何者なのか。主人公の杏奈は途中でマーニーが実在する人間ではないことに気づきあたらしく友だちになれそうな子には「でもそれは自分の空想の中で自分が生み出した幻の友だちなの」というようなことを打ち明ける。でもそれだってしょせん取り繕ってそういっただけ。僕はマーニーは実在する正真正銘の幽霊なんだと思う。どうも変ないいかたですが。安奈のお母さんのお母さんつまり安奈のおばあさんの幽霊です。これはのちのち明かされることだがマーニーは病気療養のためとはいえまだ幼いわが娘を全寮制の学校へ入れて置き去りにした。その娘も(安奈のほんとうの母親)とうとうマーニーを赦すことなくこの世を去る。マーニーは良心の呵責に耐えられずせめて孫の安奈に赦しを請うためこの世にあらわれた幽霊なのだ。と思いました。安奈とマーニーが嵐の日にサイロへ行きそこで偶然にも幽霊のマーニーだけ助けられたのに対して(といういいかた変ですが、まあ幽霊世界のことですから)またもや安奈だけ置き去りにされるという出来事が起こる。ここも非常によく考えられてるなあと感心した。安奈にすればマーニーに置き去りにされたことといまの自分が養父母にこの海の町に追いやられ(置き去りにされ)ている(ように感じている)こころの不安感とが二重の意味で怖い怖いサイロの夜の嵐に象徴されたすばらしい場面だった。その作画にもそうとうな迫力があった。こういうメタファーはほかにもあってたとえばお屋敷での幽霊たちのパーティーでただひとり生きている安奈は死んだお手伝いのばあやのショールを借りてそれを巻くことではじめて邸の中に入ることが許されパーテーに出席する。花売りの少女としてパーティへ潜り込んだ安奈は花を買いたがる紳士淑女たちにあっというまに取り囲まれるが彼ら彼女らがいっせいに差し出す紙幣やコインを安奈はどうしてももらえない。この場面も実に怖い。そしてこれは義母が役所からもらってる養育費にこだわりそれもこころを開けない要因となっている安奈の心情と符号している。輪の内側にいる人(マーニー)は外側にいる人(安奈)のことを自由で羨ましいと思い逆に外側にいる人は内側の人を輪という大きな庇護のもとなに不自由なく暮らせて羨ましいと思っている。それは安奈とマーニーの関係性そのものだ。いつまでもこういうことばかり書いていてもキリがないが終盤のタネ明かし(説明)の紙芝居のようなところはもう少し工夫の余地があったかなあと惜しまれる。といってもほかに妙案は思いつきませんが。安奈がそこでもマーニーの正体に気づかないのはちょっと不思議なんだけどね。やがて夏休みもおわりお義母さんはちゃんと安奈を迎えに来た。きっとお義母さんという人は人から近道を教えられても絶対そこをとおらない融通の利かない人なんだろう。だけど遠回りしてもちゃんと目的に向かって進んでいればいつかは待ってる人に出会えるのだ。お義母さんも安奈と離れてる期間にそのことがわかったに違いない。そしてお義父という人は一度も出てこないけれどこのお義母を見ていればどれほど安奈を愛しているか十分想像つくのだ。そしてついに安奈がマーニーのほんとうの正体を知る瞬間がやってくる。自分のルーツを知る瞬間が。自分は何者でどこから来たのか。あんたはあんたのようにしか見えない。わたしはわたしにしかなれない。安奈はマーニーが自分の空想が作りだした幻ではなくたしかにいた実際にこの手で触れ合うことができたあの感触は全部本物で正真正銘本物の幽霊だとわかってうれしかっただろうなあと思った。最初はあれほど面倒くさがってどうせ形式だけの手紙なんて意味がないとバカにしていたくせに最後には「手紙を書くわ」と積極的にいうようになってる安奈。郵便ポストはこの世の誰かと誰かをつなぐ象徴でだとすればそういう細かい部分までほんとよくアイデアが練られている。神社とポストのあるロケーションがよかった。あとはまるで遠い外国の海の町の深い深い入り江を思わせるような美しい風景が素晴らしかったなあ。月夜の海にボートを漕ぎだす安奈とマーニーのロングショットもすごくきれいだった。夏といういっときのかぎられた時間の胸の高鳴りとはかなさ。潮が満ちる時間にだけ許されるマーニーとの逢瀬の瞬間。ふたりの気持ちは最高潮に盛り上がるのだった。美しい絵や恐怖をあおる絵はまちがいなくアニメーションの手柄でしょうね。いよいよ町を去る日。あのれいの「太っちょ豚」の子とケンカ別れ以来はじめて再会しお義母さんに「おともだち?」と聞かれた安奈が「どうかな?」ととぼけていうのが可笑しい。でもきっと安奈はあの太っちょ豚の子と来年の夏はきっと生涯の友だちになるような気がしました。 

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