されど低糖質な日日

~Ⅱ型糖尿病患者のありふれた日常~

その「大丈夫ですか?」に少しイラっとする

「見られる」を「見れる」と言う「ら」抜き言葉や、「○○させていただく」のような「さ」入れ言葉に代表される、いわゆる日本語の乱れがひところかしましく叫ばれていたが、昨今ではそれも容認する風潮にある。あるいは、「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」のような、なんでここで過去形なの? というふうな可笑しな言葉遣いも慣れてしまえばまあそれほど目くじら立てるほどのことでもない。

ブログタイトルに挙げた「大丈夫」の用法だってそうだ。会社の上司が部下に「これから酒つきあえよ」と誘った場合、部下の返事が同じ「大丈夫です」でも、「OK(承諾)」の意味の「大丈夫」なのか、「NO(拒否)」の意思表示なのか、その場面や状況によって上司は部下の顔色などを見て的確に判断するより他ない、という笑えない笑い話も最近ではあまり聞かれなくなりましたよね。

あるいはスーパーでよく耳にする「レジ袋の方は大丈夫ですか?」という接客の、「方は」の方はひとまず置いとくとして、いったい何が「大丈夫?」なのかとっさに判断しかねる「大丈夫」の乱用や、「明日仕事休んでも大丈夫ですか?」のように自分の都合をやんわりと押し付けてくるような図々しさと卑屈さが同居した「大丈夫?」の用法も、もはやけっして珍しいものではなくなった。実際、非常に便利な言葉なので僕もよく口にするし。

とはいえね、僕が近ごろとみに感じるイヤ~な「大丈夫ですか?」もあって、それは日本語の乱れとかなんとかいうより、言葉本来の使い方であっても、むしろ僕自身の心の乱れというか余裕のなさが招いているような「大丈夫ですか?」の用法なのである。いんや、用法という汎用性のあるものではなく極めてピンポイントでプライベートな「大丈夫ですか?」使用例というべきか。

職場の若者で、彼はたぶん年長の僕のことを労わってくれているのだろうと思うが、ことあるごとにすぐ「大丈夫ですか?」と声をかけてくる人がいる。もちろん直接的に仕事の内容とかかわることではない。それだとあからさまに僕の仕事の能力を疑っていることになりかねないので、さすがに彼も心得たものでそういう場面では間違っても言ってこない。

そうではなく、僕が彼に要らぬ愚痴を聞かせてしまったときや、ちょっとした隙に疲れた素振りを見せたとき、風邪の引きはじめに軽く咳込んだとき、あるいは油断して眠そうに欠伸でもしようものなら、すかさず「大丈夫ですか?」とやられる。これ、正直言うと少しイラっとくる。少しちゅうか、だいぶ。

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本当になんでもないたいしたことないときは、「大きなお世話だ」と彼の余計な気遣いを鬱陶しく感じる。同情されたようなバカにされたような年寄り扱いされたような(ジシイなのはジジツですが)。大丈夫じゃない場合にはなおさら、こっちにだってつまらない意地があって「大丈夫じゃない」とは口が裂けても言えない。もし本心から心配して労わってくれる気があるなら、言葉じゃなくそのぶん黙ってリカバリーするとか具体的な行動でその気遣いを示してくれよ、と傲慢なことまで考えてしまうのだ。

まあ要するにどっち転んでもありがたいというより、ありがた迷惑というかやはり鬱陶しい。あれ、なんでしょうね? 「自分、気遣いできるでしょ」アピールなのか、ちゃんと年長者労わってるんですよアピールなのか。それとも彼は本気のやさしさで僕のことちゃんと労わってくれてるのかもしれないけど。だいいち、僕に無用のアピールしたところで彼に得るものはないって彼の方でも承知してるわけだしね。

先日はいっしょにエレベーターに乗り合わせて、目的の階でエレベーターを降りようとしたとき、うっかり僕がドアのところの隙間につまづいて軽くよろけてしまった。本当にそれはうっかりで、疲れて足がもつれたわけでも、めまいでも何か病気だったわけでもない。とっさに「あっ、かっこ悪っ」と思ったが、でも転ぶほど大げさによろけたわけじゃなかった。

ところがすかさずくだんの若者は、「大丈夫ですか?」と心からの心配をしているふうに声をかけてきたのだ。僕は顔では照れ笑いしてみせながら「大丈夫、大丈夫」と答えたものの、むしろ逆にちっとも大丈夫なんかじゃなく、心掻き毟られるほどの恥ずかしさと怒りで「いちいち大げさにうるせーんだよ!」と怒鳴りたい心境になった。こんな場面での正解は、スルーしろ、だ。

もちろんあとから冷静に考えれば、オレも小せえなあ、大人げないなあ、どうして彼の言葉を素直に思いやりややさしと受け取れない? 感謝できない? と己の狭量さを大いに反省することしきりなのだが、そのときは瞬間湯沸かし器みたいにカッなって、心の中は千々に乱れていた。まあ単純にそれだけ僕が歳をとったんだなあという気もしますがね。がはははは……。

最近はいっそもう、彼の「大丈夫ですか?」というのは彼のクチグセなんだと思うことにして平静を装うようつとめているが、内実は心穏やかではいられない。あれたぶん僕以外の人にも評判悪いんじゃないかなあと、それこそ杞憂かもしれないけどちょっと心配になる。他人に対して(特に年長者に対して)気が利かな過ぎるのも困るが、気の回し過ぎは却ってマイナスになるってこともあるからね。もっとも、そうされてよろこぶ人もいるから難しいところだろうけど。