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映画『超高速!参勤交代 リターンズ』(感想の追記あり)公開記念、前作『超高速!参勤交代』感想(劇場公開時の感想です)と、そもそも参勤交代とは何か?

いよいよ今月10日(土)から、映画『超高速!参勤交代 リターンズ』が劇場公開される。言わずと知れた『超高速!参勤交代』(2014年)の続編。

前作では磐城国の小藩・湯長谷藩が、藩の所有する金山に目をつけた幕府老中の陰謀によって、まさにいま参勤交代を終え国元に辿り着いたばかりだというタイミングで、「5日のうちに再び参勤交代せよ」という無理難題をふっかけられる。もし幕府の命令を断ったり期日に間に合わなければ、藩はお取り潰しにあってしまう、という大ピンチが出来したのだった。

そして今回のリターンズで描かれるのはその帰路。国もとで起きた一揆を終息させるため、一行はなんと往路の倍の速さ(たった2日!)で帰らなければならなくなるという、事実上不可能に近いタイトな設定。主演は前作に引き続き佐々木蔵之介さん、ヒロイン役にはおなじみの深田恭子さん。家臣団も前作同様の配役で、そういう意味では抜群に安定した面白さが期待できそうだ。

そこで、当ブログでは恒例となった、話題の地上波登場映画を僕が劇場公開時に見て、当時のブログに書き殴った感想を再掲するという安易な企画の第何弾か? をお送りしますね。いうまでもなく、誤字脱字以外はほとんど加筆修正していないのはいつものとおりです。


『超高速!参勤交代リターンズ』WEB予告

 

そもそも参勤交代とは?

でもその前に、予習と復習を兼ねて、そもそも参勤交代とは何か? について少し書いておきます。wiki他によると、参勤交代は江戸幕府三代将軍家光によって制度化されたもので、おおむね諸大名は一年おきに江戸と自国領を行き来しなければならず、江戸を離れる場合でも正室と世継ぎは江戸に常住しなければならない、ということを定めた制度のことだ。

国元から江戸までの旅費だけでなく江戸の滞在費までも大名に負担させていたため、各藩に財政的負担を掛けると共に人質をも取る形となり、諸藩の軍事力を低下させる役割を果たした、と言われているが、これはあくまで副次的なものにすぎず太平の世にある江戸時代に将軍と大名との主従関係を示すための軍事儀礼であった。

と、いうのがいまでは通説となっている。むしろ幕府では、参勤交代によってかかる諸藩の支出をなるべく節約するよう通達を出していたらしい。藩の財政が疲弊して江戸を守る軍役に負の影響を及ぼしては元も子もなかったからだ。僕などがかつて学校の社会科の授業で習ったことと、だいぶ様相が異なっている。

一方、大名行列がとおる街道や川は整備され、各宿場町は諸藩の落としていく貨幣で経済的に潤い、逆に江戸の文化が地方に広まるなどの文化的な側面でも価値が高かったといわれる。ちなみに、伊達家の仙台藩で、国元から江戸までの所要期間は8~9日だったそうだから、このことから福島から5日、まして2日で国元へ帰るというのがいかに無謀なことか理解できるというものだ。

まあいずれにしても、参勤交代の制度が200年以上続いた徳川政権の最重要な基盤になっていたことは間違いない。なお、時代劇でよく見かける、領民が土下座して参勤交代の大名行列が通りすぎるのを待っているというのも、あれは徳川御三家(水戸家は参勤交代なし)だけのことにかぎられていたそうだ。むしろ領民にとっては、勇壮できらびやかな大名行列を見るのは当時のひとつの娯楽でもあったらしいよ。

 

『超高速!参勤交代』感想(劇場公開時の感想です)

『超高速!参勤交代』を見に行く。猛暑の渋谷を歩き回ったあと、キーンと冷房の効いた映画館で汗が引くのを肌で感じながら見るには、まさにうってつけの超くだらない時代劇コメディですよね。えっと、ほめてます。――以下、ネタバレ含む。

ストーリーはあってないようなもので、要するに、福島の弱小貧乏藩が、江戸詰から久しぶりに故郷に戻ってきてホッと息つく暇もなく、悪い老中の陰謀で再び参勤交代を命じられる、というこの奇想天外なアイデアがすべてというか。あとはアイデアにどう肉付けしていくかという映画。

貧乏藩だからもともとカツカツな財政状態だし、しかも通常でも8日程度かかるところをたった5日で来いとのお達しで、だけど上様からの命令とあらば断われるはずもなく……。ズバリ、江戸時代のミッション・インポッシブル! そこでまあ、いろいろとあの手この手のセコイ策を講じながら江戸までの道中を切り抜けるわけだが、その奇策やアクシデントがどれもこれもそこそこ面白かった。

たとえば、一行の人数は藩主を含めて7人+案内人1人+猿一匹とか。主要な宿場町では、大名行列に見せかけるため中間(ちゅうげん=雇われ奉公人)を雇い、それでも経費の関係からおおぜいは雇えないので、いったん通り過ぎたら先頭から裏道に抜けて列の最後尾まで戻り、また同じ道を行進するとかね、これなんてすばらしく可笑しい。笑い転げました。

あと、閉所恐怖症で籠に乗れない藩主に代って、猿の菊千代が籠に乗っているのは皮肉な笑いだ。菊千代というのは、『七人の侍』で三船敏郎がやった侍の名前で、そういうことからいうと、これは明らかに『七人の侍』を意識した、というかパロディでしょうね。この猿の菊千代、クレジットでもとくに猿という説明もなしにふつうに「菊千代」と名前が出ていて、最後までクスクス笑わせてくれた。

いちいちぜんぶのギャグやシチュエーションコメディを挙げていくとキリがないのでよすが、特筆すべきは参勤交代の途中、けっこう派手なアクションシーンもあるのですが、結局味方は誰一人死なないという。案外、こういう人情コメディでは重要なことだなあと思った。佐々木蔵之介さんはじめ 俳優さんたちが、みんな楽しそうに自分の役になりきっているのが清々しかった。これはシリーズ化できるのではないか。

 

さっそく『超高速!参勤交代 リターンズ』を見てきた感想(2016.9.12追記)

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どうしてもいっておかなければならないのは、このタイトルと内容との若干の齟齬についてだ。まず参勤交代の、行きが「参勤」帰りが「交代」で併せて参勤交代である、というフレーズを宣伝や解説でたびたび目にするのだが、こういう言いぐさって歴史的に正しいの? なんだか「家に帰り着くまでが遠足ですよ」という校長先生の言葉を面白おかしく茶化したようにも思えるけど、まあ僕がただ無知なだけなのかもしれません。

それからリターンズとは、前作のあの湯長谷藩の殿さまはじめとする個性豊かな面々が再び映画になって戻ってきましたよ、という意味合いと、文字どおり参勤交代の江戸からの帰り道が今回の舞台ですよ、という意味のいわばダブルミーニングになっている。

――のはず、というかそのわりには(ネタバレにを恐れずに書くと)残念ながら参勤交代の帰路の話というより、どちらかといえば藩に戻ってきてからあとの方に、どうやら話の重きが置かれているような印象だった。さっきの遠足の喩えではないが、ことの顛末がすべて片付くまでが参勤交代である、とする理屈ならばギリ許容範囲といえなくもないが。

実は映画がはじまってほどなくは、江戸から牛久までの長閑な帰路の様子が描かれるのだ。そこへ国元の一大事を知らせる早駆けが江戸表から到着する。それは湯長谷藩で一揆が起こったという知らせだった。一揆自体も信じられないことだったが、既に幕府の目付が江戸を発ち、なんとあと2日で国元へ到着するだろうということに殿さまたちはいちように驚くのだった。

もしそんなことになれば、藩のお取り潰しは必死。なんとか幕府の目付が到着するより早く国元へ戻って一揆の始末をしなければならない。行きは国元から牛久まで超高速でも4日かかった。ところが今度はなんとその半分の2日で帰る羽目になってしまったのだ。というふうな今回も完全に出オチ? になるはずだと僕はてっきりそう思っていたのだが、前述のとおりさにあらず。

同じ話をくり返してもしょうがないというふうに、いい方に解釈すれば納得もできるが、でも僕的にはできれば参勤交代の道中に無理難題が出来して、それを奇想天外なアイデアと根性と持ち前の明るさで乗り越えるという、いってみれば前回と同じパターンを踏襲して、よりタイトによりハードにスケールアップした『リターンズ』が見たかったなあという思いが強かったですね。そこは、少し口惜しいです。

細かなギャグや、後半の話の展開、そもそもなぜ領民に慕われている殿さまがありながら国元に一揆などが起こったのか、という物語の核心に触れる部分と結末については、これはもう完全にネタバレになるので気になる人は実際に映画を見てください、といった方がいいでしょうね。ひとつだけ、ラストの将軍吉宗の仕置きについて、悪役老中に対していかにも甘すぎる沙汰がでたことで、これはさらなるシリーズ化をもくろんでいるんだろうなあと考えられるがどうでしょうね。

役者さんたち、前回同様とってもよかったです。これも前に書きましたが、ますます楽しそうに役柄を演じているように見えました。それぞれの役にちゃんと見せ場が用意されていたのもこういう集団劇としてはすごくよかった。大爆笑というほどでは正直なかったし、都合のいい雑な作りといえば否定のしようもないけれど、そこそこの笑いはあって退屈しのぎにはちょうどいい感じの映画かなあと思いました。 

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