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されど低糖質な日日

~Ⅱ型糖尿病患者のありふれた日常~

夏が来ると読み返したくなる小説3選

九州・四国・近畿・東海・北陸につづいて、関東地方の長引く梅雨もようやく明けそうな気配です。いよいよ本格的な夏がやって来ますね。ところで、夏が来るとなんとなくまた読み返したくなる小説というのがあなたにはありますか? 今回、僕のとっておきの三冊についてごく簡単にまとめてみました。ご笑覧くださるとうれしいです。

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まず一冊めは、開高健の最高傑作(と僕が勝手に思っている)『夏の闇』。これは見事な身辺雑記です。他人に会うのが億劫で、たまの散歩以外はずっと女の部屋にこもり、女を訪ねてくる人があればキッチンに隠れる。ソファの皺が、男のひとがたにくぼむほど惰眠をむさぼり、貪欲なセックスと旺盛な食欲、酒、煙草……。

そんな日常に倦んでも、女を捨てる踏ん切りがつかない。とうとう男は旅に出て、釣りをする。この釣りの場面はさすが感動的なまでに美しい。そうしてまた、あの命からがら逃げ出した戦場へと男は舞い戻ってゆきます。闇から抜け出し地獄へと戻る。なんだかただそれだけの話なのに、皮膚にまとわりつくような夏の暑さと、濃密な文章がクセになる一冊です。

あと、小説の内容とはいっさい関係ない話ですが、開高健で僕がなぜか思い出すのがテレビドラマ『北の国から』で、富良野の小さなスナックでホステスとして働く「こごみ」という女性が登場する回のことです。彼女はいっとき主人公の五郎と、そういう関係になっていくのですがが、彼女に惚れた男たちは実は過去にもたくさんいて、こごみが開高健のファンだと男たちに漏らすたびに、富良野にある小さな本屋さんから開高健の本が売れてなくなる、というエピソードがありました。あれ、とっても面白かったです。 

夏の闇 (新潮文庫)

夏の闇 (新潮文庫)

 

二冊目は、定番中の定番かもしれませんが、井伏鱒二の『黒い雨』を。いまさら内容をいう必要もないくらい有名な話ですよね。原爆は怖いなあ、戦争はいけないなあと、それはまあそのとおりなのだけど、むしろ僕は『黒い雨』の日常描写のゆたかさに、何度読んでもそのつどハッと驚かされます。

僕がとくに好きな場面は、戦争が終わって、主人公と彼の勤め先の工場長のふたりが、取引先への貢物用に保存していた缶詰の牛肉を食べるところ。凄惨な被爆体験をつづる中で、この場面描写の独特のユーモアは、文学というものがいかにしなやかであるかを教えてくれます。まさに井伏鱒二の真骨頂だと思います。

話はまた横道にそれますが、武田百合子の『富士日記』の中で、彼女が毎年終戦の日が近づくと、夫であり作家の武田泰淳とともに富士の山荘にこもり、持ち込んだ井伏鱒二全集から『黒い雨』を読み返す、というエピソードも僕の大のお気に入りです。 

黒い雨 (新潮文庫)

黒い雨 (新潮文庫)

 

三冊目は、一般的には夏の盛りというより夏の終わり、秋のはじめというイメージかもしれませんが、それでもなぜか夏になると毎年くり返し読みたくなる(事実そうしている)のが高橋治の『風の盆恋歌』。これは越中おわらの風の盆の祭の日に会うと約束した、男と女の道ならぬ恋を描いた恋愛小説です。

というかはっきりいって不倫小説ですよ。世間的にはいまもっともセンシティブなテーマの作品かもしれません(笑)。でもすごくせつない。倫理観から毛嫌いするというわけではないのですが、なんとなく不倫ものは僕も苦手な分野なのですが、この小説と『恋におちて』という映画だけはなぜか別腹。

そういえば映画のロバート・デ・ニーロさんとメリル・ストリープさんが運命的な出会いをして恋におちるのが、クリスマス・イヴのニューヨークの本屋さん、という設定もステキでしたね。 あ、映画は冬の話だったか。

風の盆恋歌 (新潮文庫)

風の盆恋歌 (新潮文庫)

 

以上、駆け足で「夏が来ると読み返したくなる小説3選」の紹介でした。
さて、あなたの夏といえばこの小説ぜひ教えてください。 

   

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