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~Ⅱ型糖尿病患者のありふれた日常~

映画『64-ロクヨン』前・後編を一気見した感想

7月1日。カミさんと『64-ロクヨン』を見に行く。もともと前後編を通しで見ようと話していたのだが、前編の方はさすがに公開から日が経っているせいで、条件面でずいぶん制約される。そのなかでいちばん時間的に無駄のない予定を立てた。時間だけではなく料金的にも。映画の日。料金は通常1本1800円のところが→1100円、2人で前後編だから都合4本分、そう考えるとこの割引率は結構侮れないよなあと思う。

原作は横山秀夫さんの同名小説。発売当初に読んだとき文句なく面白かった。そうとう感動した覚えがあるが、ディテールは既にかなりあやふや。昭和64年という忘れられない年(昭和天皇崩御によるたった7日間だけ)に起きた未解決誘拐事件(通称ロクヨン)をめぐり、地方警察内の権力争いが繰り広げられる。

花形部署である刑事部と人事や広報といった裏方として組織を支える警務部との対立。一般の会社でいうところの営業と総務の対立みたいなものだ。東京からの出向組である警察庁キャリアと地元組との対立。署内に陣取る記者クラブと広報室の対立。同じ広報室内にも立場の違いや意見の衝突があり、記者クラブ内にも各社微妙な思惑の違いや、東京本社と地方組の確執がある。すべからくこれは対立のドラマだ。

そんななかで、元刑事でいまは広報官の職に甘んじている主人公三上(佐藤浩市)はどう立ち回るのか、というような話がいわば前編の骨格。三上夫婦には一人娘がいるのだが、この娘が引きこもりのあげく家を飛び出して行方知らずになっている。もうどこかで死んでいるかもしれない。という親子の対立も物語の隠された小さからざる軸になっている。原作の手柄によるのだろうが、実に濃厚な人間ドラマだった。

警察ものでミステリーといっても、ひとりの敏腕刑事が鮮やかに難事件を解決するストーリーとは一線を画する。どこにでもいる個人が、組織のなかで押し潰されそうになりながらも必死に抗うさまを、これでもかというくらい僕らはスクリーンに見ることになる。終始苦虫を噛み潰したような佐藤浩市さんの顔。

惜しむらくは、原作では最初イヤなヤツだと思えた人物たちにも、当たり前のようにひとりひとり抱えているドラマがあり、巨大な組織の一員としての矜持が感じられた。そこがぐっとくるポイントだったのだが、映画版ではさすがにそこまでじっくり描き切る余裕はなかったんでしょうね。

それでもイヤなヤツの代表格ともいえる警務部長・赤間役の滝藤賢一さんの役柄と演技は(ほんとイヤなヤツなんだな)光っていた。彼の存在感があってこそ、佐藤浩市さんがいっそう引き立って見えた。そんな赤間が、思い通りにいかず応接テーブルを力いっぱい蹴飛ばすシーンには凄みすらあったもの。

ストーリーの展開上、前編と後編では描かれる主題がガラリと変わる。一気見してそこに多少の戸惑いがあった。前編は記者クラブ(瑛太さんを幹事社の記者とする)と警察広報の対立軸が中心の話で、いってみれば後編のための序章・前段階・前哨戦といった趣だが、その前編の最後に、かつての未解決事件ロクヨンを模したとおぼしき新たな誘拐事件が発生するところで後編に続くのだ。

後編ではその辺のことが中心に描かれていき、いかにもミステリーっぽく、かつ俄然刑事ドラマっぽくなる。が、ネタバレになってもアレなのでこれ以上詳しくは書けません。僕的には、前編の方が圧倒的に面白かったですね。前編の、とくにタイトルが出る前のシークエンスは実にすばらしかった。一方で後編の終盤はやや語りすぎ、キツイ言い方をすると蛇足、というふうに感じた。なんでもかんでも決着をつけなければならないとする風潮には、僕は与しないのです。

総じて、これはもう方々でいわれていることかもしれないが、わざわざ前後編に分ける必然性が感じられなかった。少し長くなってもまとめて1本の映画にした方がよかったのではないかと思ったくらいだ。まあそれだと、タイムテーブル的に興業側がうんといわなかったのかもしれません。

あと、誘拐被害者の父親役の役者を考えると、なんだかそれだけでもう半分くらいネタバレになるなあとつい余計なことを思ってしまった(あ、ごめん)。ミステリーの場合、キャストの難しさってやっぱりあるなあと。三浦友和さん、椎名桔平さん、奥田瑛二さんらは、あいかわらずいい人なのか悪い人なのか判然としない不思議な存在感のある人物をのらりくらりと楽しそうにやっていたのがよかった。

この感想を書くにあたり、あらためて映画の前後編を通しで振り返っていて気づいたのですが、結果的に「子を持つ(4人の)父親の物語」でもあったのですよね。 誘拐事件を題材にしているからということではなく、そして父親にかぎらず、親というのは喜びもある反面どこか哀しくせつないものだなあと、僕も2人の子の親としてそのことを強く意識しました。

64(ロクヨン) 上 (文春文庫)

64(ロクヨン) 上 (文春文庫)

 

 

64(ロクヨン) 下 (文春文庫)

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合本 64(ロクヨン)【文春e-Books】

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